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あたドラ

Episode 04

目の前で人が回転!?

ミナミトランスポートに勤めて8年になる皆川は、トラックドライバー歴20年のベテランだ。若い頃は、北は青森、南は鹿児島まで、ほぼ全国を走り回っていたが、現在は海上コンテナ輸送に従事している。海上コンテナ輸送とは、クライアントが輸出する荷を港へ運んだり、輸入した荷を港から引き上げてクライアントに届ける作業だ。業務形態は2つのパターンに分けられる。朝、営業所から港へ直行し、荷を引き上げ、クライアントへ届けるパターン。もうひとつは、営業所から前日引き上げた荷をクライアントへ届ける、あるいはクライアントから荷を引き上げてから、港へ行くパターンだ。前者の場合は、午前2時。後者の場合は午前5時〜6時の出発になる。

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2020年の師走。その日、皆川は午前5時過ぎに営業所を出発した。クライアントに荷を届けてから港へ向かうパターンだ。最初の目的地は、長野県塩尻市にある事業所。いつものように国道20号から一般道で事業所に到着したのは午前8時過ぎだった。そこで荷降ろし作業を終えて、空のコンテナとともに大井埠頭へ向けて出発した。皆川は今の業務に満足している。以前のように、数日かけて遠距離を走ったり、毎日違う場所へ行くよりは、精神的にも肉体的にもラクだからだ。もちろん若い頃は、仕事とはいえ、日本全国様々な土地へ行けることは楽しくもあったが。

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午後1時、大井コンテナ埠頭に到着。コンテナを降ろし、明日の配達準備をすれば今日の仕事は終わりだ。休憩も入れつつ、3時間ほどで作業を終えた皆川は、日が暮れ始めた夕方4時頃、営業所へと向かった。いつものことだが、この時間はどうしても渋滞に巻き込まれる。まして、師走だ。皆川はラジオの声に耳を傾けながら、クルマの流れに合わせてストップ&ゴーを繰り返した。やがて渋滞から解放されて山梨県内に入ると県道へ。順調に走って、あと5分もすれば営業所に到着し、いつもと変わらない平穏な日常が終わるはずだった。しかし、そうはいかなかった。

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かつて小説の題材にもなった、笛吹川にかかる蛍見橋の西詰交差点で信号待ちをしている時だった。皆川の目に、左から走ってきた自転車が横断歩道で前転するシーンが飛び込んできた。漕いでいた人間は自転車から放り出されるかたちで、道路に横たわった。最初は「あー、痛そうだな」と思って見ていたが、信号が赤になっても起き上がる気配がない。「これはまずい!」と思った皆川は、ハザードランプを点けてトラックから飛び出した。すると交差点で信号待ちしていた他のドライバーも、次々とクルマから出てきた。全部で4、5人いただろか。横たわっている人にかけよると「大丈夫ですか?」と声をかけたが、返事がない。大きな外傷は見られないが、意識が朦朧としていた。

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皆川は、救急車を呼ぼうとポケットに手を入れたが、携帯電話をトラックに置いたままだった。「誰か、救急車と警察をよんでください」と声をかけると、ふたりの人がそれぞれ電話をかけ始めた。交差点の真ん中で人が倒れている状況なので、とりあえずどのクルマも動けない。皆川はとりあえず、他の人と協力して倒れた人と自転車を歩道に移した。倒れた人のケアを一緒に運んでくれた人に任せると、今度は交通整理に走った。そこで、ようやく寒いことに気づいた。ジャンパーも羽織らずに外に飛び出したからだ。寒い。だけど今さらトラックに戻ってジャンパーを取ってくるのもカッコ悪いと思い、そのまま交通整理を続けていると救急車と警察が到着した。その頃には倒れた人の意識もはっきりした様子で、ほっとした皆川は、警察に状況を説明して現場を後にした。

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このエピソードは
株式会社ミナミトランスポート
皆川 智也(ミナガワトモヤ)様に
ご提供いただきました。

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