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あたドラ

Episode 03

偉大なるルーチン。

お茶、コーヒー、ジュース。コンビニやスーパーに行けば、“あたりまえ”のように並んでいるペットボトル飲料。これらを私たちが毎日、いつでも、どこでも買えるのは、トラックドライバーが、加工工場から全国の店舗へ商品を運んでくれるからだ。でも、それが全てではない。様々な種類のペットボトル飲料の原材料になるのは水だ。水がお茶やコーヒーになって、ボトル詰めされて、初めて私たちの手に届く。つまり、もし原材料となる水が加工工場に届かなかったら、私たちが“あたりまえ”と思っていたことが、そうではなくなることもあるのだ。そんな事態を招かないように、日々、水を運ぶというルーチンを繰り返しているトラックドライバーもいる。

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その日、山本は午前2時に営業所を出発した。彼にとっての定時だが、タンクを洗浄する日は1時間早く出発する。タンクの洗浄は2日に1回。つまり午前1時と2時の出発が日替わりでやってくるのだ。ミナミトランスポートに入社して12年、今の業務を始めてから8年になる。朝、というよりは深夜の始業にはすっかり身体が慣れている。行き先は、山梨県と長野県の県境にある天然水白州工場。ここで20トンのタンクローリーに天然水を入れ、静岡県小山町の加工工場まで運ぶのが、山本の業務だ。白州工場では365日24時間、1時間おきに加工工場へ天然水を出荷する体制をとっている。現在は6社ほどの運送会社によって、24台のタンクローリーが稼働している。毎日、同じ時間、同じタンクローリーが、白州工場を出発し加工工場へ向かう。その一翼を担っているのが、山本だ。

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空が白みはじめた午前4時すぎ、山本は白州工場に到着した。タンクローリーに天然水を入れ終えると、小山町に向けて出発した。いつのものように国道20号に出て、中央自動車道甲府昭和インターチェンジまで向かった。雲ひとつない快晴。今日も一日暑くなりそうだと思いながらタンクローリーを走らせていると、携帯電話が鳴った。「もしもし?」相手は山本の1時間前に出発した運送会社のドライバーAだった。声の感じから、慌てている様子が伝わってくる。話を聞くと、甲府昭和インターチェンジの入口でタンクローリーが動かなくなってしまったと。エンジンはかかるが、タコメーターが上がらず発進できないということだった。山本は瞬時に状況を理解し、タンクを積んでいる台車を切り離して、トラクターだけにして安全な場所へ移動するように伝えた。整備士免許を持っている山本は、過去の経験からタンクの荷重さえなくなれば、トラクターは動くと考えたからだ。

  • 天然水の卸作業
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電話を切ると、山本はすぐさま道路公団の緊急連絡先に電話をかけた。トラブルが起きた場所はインターチェンジの入口で一車線の道路。壁にギリギリ寄せて停めても、クルマ一台がなんとか通れる幅しかない。しかも、その場所にはトラクターから切り離されたタンクを積んだ台車が置かれたままである。後続車が来れば混乱するのは明らかだ。また、自分が現場へ駆けつけて台車を待避所に運ぶにしても、誘導してもらわなくてはならない。そこで、道路公団に応援を頼んだのだ。Aからヘルプの電話を受けた約40分後、トラブルの現場に到着した。道路公団の応援部隊はすでに駆けつけており、後続車の誘導をしていた。幸い早朝ということもあり、渋滞というほどの混み具合にはなっていなかった。

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山本は待避所に向かうと自分のタンクローリーの台車を切り離し、トラクターだけで現場へと向かった。そこで放置されていたAの台車を取り付け待避所へ引き返すと、すぐ台車を取り外し、自分の台車に付け替えた。ここまでに要した時間は約30分。通常、白州工場を出発してから加工工場に到着するまでは4時間という時間が設けられている。これが遅れると全体の体制に影響が出てくる。先行して到着するはずだったAの代わりに、山本のタンクローリーが時間通りに到着できれば、十分リカバリーできる。山本は作業を終えるやいなや、Aのほっとした表情と「ありがとう」という感謝の言葉をあとに、加工工場へと向かった。山本の出発後、Aの会社から代車のトラクターが待避所に到着。Aは自分の台車を取り付けると、山本の後を追うように出発した。順番は入れ替わったものの、予定通り水を届け、体制が崩れることはなかった。違う会社でも、同じ業務を行っているという仲間意識が、“あたりまえ”が止まりそうな危機を救った。

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このエピソードをご提供いただいた
株式会社ミナミトランスポート
山本 一博(ヤマモトカズヒロ)様

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